シルヴィア・ヴァルトシュタイン:災厄の再来 ―世界の行方―

 

第1章 静寂の夢

 シルヴィアはよろめきながら立ち上がり、剣へ手を伸ばす。

「・・・ッ!!」

その瞬間

視界が真紅に染まる。世界が軋み、何かが囁き、魂の奥底に黒い水が流れ込むようだった。 そして・・・気を失った。

 

 目覚めたのは、ベッドの中だった。まだ意識が朦朧とする中、ベッドの上で上体を起こす。天井は低く、家財も質素な部屋の一角、テーブルがあり、ポータブルプレーヤーからは流行りと思われる音楽が流れている。窓の外にはそこそこの街並みが垣間見える。

「まだ”アイサガ”だよな。っていうか、生きてる?」

頭痛が襲い、全身が軋むような感覚。すると、部屋の扉が開いて一人の女性が入ってくる。

「あ、気がついたんですね。もうこのまま起きないんじゃないかと心配しました。」

湿原地帯のベヒーモス戦で見かけた女性、イリーネだ。

「あんたが、助けてくれたのか?」

「どうにも気になって追っかけてたんです。城の中で爆発みたいなのが見えたんで、中に入ったら最上階で倒れてました。あ、正確には兄にここまで運んでもらいました。兄は消防隊員なんで。」

「礼を言うよ。ありがとう。ところで。」

イリーネははっと気づき、部屋の隅を指さす。そこには、無残にも真っ二つに折れているジルガレイドが置いてあった。

「一応、持っては来たんですが、正直もう使い物にはならないと思います。」

「だーな。いや、しゃーないな。あんだけ硬てぇヨロイ、何度も叩いたんだからな。ん?それは・・・?」

横に、見慣れない一本の剣が立てかけてある。装飾は控えめで、刃文も素直。どこにでもありそうな、整った長剣だった。

「城で見つけた時にはもう既にそれを握ってました。運んでいる時も眠ってる時もなかなか離そうとせず、指をこじ開けるの、大変だったんですよぉ。」

美しくもあり、どこか、怪しげな光をも放つ剣。

「・・・。まさか!」

ギルドの酒場で酔っ払いが話をしていたのを思い出す。

 

「どうやってその古の邪剣とやらを探すんだよ?見た事でもあんのか?」

「まったくわかんねぇ。噂では持ち手によってその形状を変えるらしいぜ。ある時は二本の剣であったり、またある時はぶっとい両手剣だったり。それと、分身みたいな片割れの剣は”霊剣”と呼ばれてて、中国の山奥の寺に祀られてるらしい。たしか”ソウルキャリバー”って名前だったような。」

「もはや謎解きだな。そんなもん手に入れようがねぇじゃねぇか!あ、魂喰われたらわかるってか?そんときゃ、後の祭りだけどな。ガハハハ!!」

 

「そういうことか、つまりあたしは、剣に認められたと。」

ぶつぶつと独り言を呟いているシルヴィアを見て、イリーネが言う。

「とにかく!安静にしててくださいね。しっかりご飯も食べて、この部屋は空いてるので、当分いてもらっても構わないです。よくなったら病院もいかなきゃだめですよ!」

てきぱきと、部屋の中を片付けてまた外に出て行った。

「んだ?なんか最初会った時と感じが違うな?性格変わったか?」

取り敢えずは体力回復だ。そう思いながら、ベッドに横になるのだった。

 

第2章 囁きの始まり

 数日後、シルヴィアの体調もだいぶ回復し、イリーネの元を離れる事ができるようになった。

「ほんっと!世話になったね。この恩は絶対返させてもらうよ。」

「元気になってよかったです。旅の折にいずれまた訪ねていただければ、それでいいです。」

「そういう訳には・・・。取り敢えず、あの村のはみ出しモンはQLPに指示して何とかしてもらうから。」

「助かります。あちらが実家になるのですが、こっちが出稼ぎみたいなものでして。半々で暮らしてるんです。あちらには家族も暮らしてますので。」

「オッケー。じゃ、またな。お兄さんにもヨロシク。」

相変わらず、ぶっきらぼうに別れるとあっという間に見えなくなった。久しぶりに”イナレ”へと向かう。

 

 “イナレ”に戻ったシルヴィアだったが、まだ体調も全快ではない為、ギルドに顔を出すのは控えた。

「あそこに行くとどっと疲れるからな。もうちょっと元気になってからにしよう。」

自宅に戻ると、剣を厳重に保管して、ベッドに腰を降ろした。

「無事に剣は入手した。魂を喰われることもなかった。そうなると、素直にアイツに渡すべきかどうかだよな。」

無意識に胸のペンダントを取り出し、開く・・・。中に入っているのは、幼い頃のシルヴィアと、もう少し歳若い男の子が笑っている写真だった。

「ユリウス」

静寂の中、一筋の涙がこぼれていた。その時、どこからともなく声が聞こえた。

「目覚めよ。」

「!!誰だっ?!」

立ち上がり、辺りを見回してみたが、当然誰もいるはずがない。

「うぅ。まだ疲れが取れてないのかねぇ。明日考えるか。」

灯りを消し、床につく。森特有の虫の鳴き声は静寂に含まれ、夜の森を包んでいた。

 

第3章 蘇る記憶

 二日後の朝、シルヴィアの姿は再びベルリンのQLPのロビーにあった。気は進まないが、依頼は依頼、あの梵字タトゥーの人物に会わざるを得ない。

「連絡が取れない?どういうこった?」

受付の女性に詰め寄る。

「伺っていた連絡先は解約になっているようでして。あの様相でしたので名刺も頂いておらず、その他の連絡手段も伺っていなかったのです。てっきりシルヴィア様が個人的に聞いておられるのかと・・・。」

「まいったな。トレーサーは?」

「それもローブ1枚ではすぐに分かってしまいます。なにせ、いつの間にか霧のようにいなくなってしまわれるので。」

「そっか、わかった。ありがとう。」

一旦、滞在先のホテルに戻る。連絡が取れないのであれば、仕方がない。ある意味、ほっとした面もある。仮の鞘から抜剣してみる。相変わらず、美しく光り輝いている。ふと、蒼騎士との死闘を思い浮かべる。

「ほんとにあの禍々しかったヤツと同じモンかよ。別物にしか見えねーけどな。」

剣も呼応するように輝く。握っていると、呼吸が整い、心拍が落ち着く。なぜか、長年連れ添った相棒のような安心感がある。

 その日の夜、シルヴィアは夢の中でうなされていた。夢の中、そこは――。

 

美しい森の湖畔

静寂の漂うこの空間で、幼い少女が湖を見ている。

湖の中央付近に誰も乗っていない、一艘のボートが浮いており。

その横の湖面に・・オールと・・・少年らしき背中が・・・。

 

「ユリウス!!」

シルヴィアはがばっと起き上がった。

「夢か・・・なんで、今頃になって。っつ!」

激しい頭痛と、また、頭の中に入ってくる声。

「目覚めよ。自分の弱さと向き合い、そして憎悪をさらけ出せ。」

「この声は・・・頭が、ぼうっとする。」

目の前が赤黒く、滲んでくる。眠るわけではなく、気を失うように倒れこんで、床に着いた。

 

第4章 覚醒

 それから数日間、シルヴィアはホテルに滞在したまま、部屋から出てこなくなった。

部屋の中は乱雑に散らかり、ずっとベッドから出れずにうずくまっているシルヴィアの姿があった。悪夢と頭痛に悩まされ、衰弱しきっている。暗がりの部屋の中で、今まで美しい姿を保っていたあの剣が、姿を変えていた。なんと、かつて蒼騎士が帯剣していた、あの禍々しい邪剣の姿に戻っており、妖気を放っていた。

「これが・・・この剣の本来の力か。」

もう、抵抗する余力もなく、ただ運命を受け入れるしかないかのように、うずくまっている。

「なぜ、こうなった?」

頭の中でまた声が聞こえる。

「負の感情じゃよ。誰しも弱みはある。我々のつけ入る部分はそこだ。残念であったな。完璧な人間なぞおらん。必ず我々の手中に陥る。人間とは、弱きものよ。」

精神を蝕まれていく感覚を止められない。聞こえてくる声に反論することもできない。

「ようこそ、ヴァルトシュタイン嬢」

聞き覚えのあるフレーズと、頭の中に響く念話の感覚。 ふと、眼前に現れたのは・・・梵字タトゥーの人物。

「そうか。貴様、剣そのものだったんだな。最初から、はめられていた、と言うわ・け・か・・・。」

シルヴィアの意識は途切れる。

 

 さらに数日が経過した。オーバーゲッツェンベルク城付近では、とある噂が流れる。

「最近とある筋から聞いた話なんだがよ。あそこの城、かつての騎士団が残した莫大な財宝が眠ってるって。」

「まじかよ!じゃあ今夜でも行ってみっか!」

「それがよ。中には番人みたいなのがいてよ。なんでも"赤い悪魔"って言われてる得体の知れないバケモンがいるらしい。周りには死体の山ができてるってよ。」

「おっかねー。じゃ、帰りましょか。」

 

荒れ果てた古城は更に荒廃し、誰も寄り付かなくなった。たまに財宝目当ての来訪者はあるが、戻ってくる者はほとんどなかった。玉座の間で月明かりに映る”赤い悪魔”のシルエットはどことなく寂しげに、うなだれていたが・・・その姿に気付く者はいなかった。

 

     ―― 完 ――     

 

エピローグ 混沌の行く末 そして未来へ

シルヴィアの心の声

~~

「あれから何日経ったのか、だりぃなー。今日もまた財宝目指してやってくる奴等を切り刻むのかよ。グロいんだよなー。血ぃいっぱい流れるし。いろんな奴等、殺しちゃったな―。ムサいおっさんばっかかと思ったら、結構イケメンもいたしな。まぁ、肉の塊になったら一緒だけどな。まったく、他人の体使ってよくやってくれるよ。もうゼッテー地獄行きだな。あたしは。」

 

~~

「アイツ、もしかしてヴァネッサか?何してんだよ。こんなトコきやがって。せっかく人の世界に馴染んだんだし、やめとけって、オラ!(できねーけど)手加減しとくからそこそこに気が済んだら帰れ帰れ!よーしよしよしよし。二度と来んじゃねーよ。はぁ、まさかこんな形で再開するとはな。でも、止めれねーんだよ。この体・・・。」

 

~~

「もう、いい加減飽きたよ。何人殺せば気が済むんだよ。頭おかしくなるわ。なんかこう、伝説の勇者とか、最強の剣とか、あたしを止めてくれるヒーローアイテムはないんかね?まぁ、西暦2020年だしな。軍とかどうだ?もうミサイルでもなんでもきやがれ!早くあたしを止めてくれぇ~!!」

 

~~

「今度はなんだよ。棒使いの女子高生と黒人のネーチャンか。ん?あれは?」

~~

 

イヴィル化しているシルヴィアは視界が曖昧で、殆どの物ははっきりと認識できないのだが、なぜか、それは鮮明に見えた。黒人の女性が持っている一本の剣。 シルヴィアはおどろおどろしい言葉を発する。

「まさか、それは・・・?」

「ヒッ!喋った!?」

女子高生は驚いた。黒人の女性も同じく驚いている。

「まさか?意思があるのか?このイヴィルは・・・?」

「その剣はなんだ?どこで手に入れた?」

「これはソウルキャリバー。お前の持つソウルエッジを破壊するために作られた"伝説の霊剣"だ!」

「ソウルキャリバー・・・・。聞き覚えがある。コイツの片割れか。」

「フフフフ。ハハハハハ!!!」

おどろおどろしい笑い声が玉座の間に響き渡る。

「待っていたぞ!どうやらここが我が終着点のようだな。全力で来い!本気で相手してやる!!」

覚悟を決めた霊剣の使い手は女子高生に語る。

「これが最後の決戦だ!瑞穂!死ぬ気でいくぞ!」

「わかってます!モニカさん、行きましょう!」

 

 果たして古より続く「霊剣」と「邪剣」とその運命に巻き込まれた女性達の運命や如何に・・・。

 

      ―― (真の)完 ――