第1章 弱さからの解放
アメリカの港町サンディエゴ。潮の香りが混ざる朝の空気を吸い込み、病弱な少女はベッドの縁で小さな手を握りしめた。ミラ・クロフォード、六歳。体は細く、すぐに疲れてしまう。
最低限の外出しかできない為、家の中に閉じこもりっきりになり、友達も少なかった。たまに外出したかと思えば仲間外れにされ、いじめられ、傷だらけで帰ってくる。そんな自分が嫌になり、いつも部屋で泣きじゃくっていた。
しかし、そんな小さな存在を常に支えてきたのは、父の言葉だった。
「真の強さは、体格や武器ではなく、心の中にある。自分を信じ、強く生きていくんだ。」
米海軍中将の父に導かれ、ミラは護身術としてヌンチャクを習い始めた。最初はぎこちない動きで、手に力が入らずにカランカランとヌンチャクを落としてしまう音が続いたが、毎日繰り返すうちに手の動きが滑らかになり、腕に力が宿った。体の状態も心配されていたが、不思議と大事には至らず、逆に食事もよく摂るようになったので、体力もついてきた。
忙しくて、休暇も少ない父だったが、家にいる時にはよくミラの稽古を観てくれていた。日が暮れた頃になると、薄明りに反射したヌンチャクの端の金の金具はぼうっとホタルが舞っているかのように見える。父は「だいぶ飛び方が不器用なホタルだな。だが、それが綺麗に舞うようになったらお前も一人前だな」厳しいような言い方だったが、その中にはしっかりと愛情も見受けられた。
父の教えは、彼女の小さな心に深く刻まれ、実を結んでいったのであった。
第2章 初陣 ― 琉球の舞台へ ―
時は流れ、ミラは十五歳になった。少女はもはや少女ではなかった。
日本の沖縄を訪れていたミラ。今日はこれまで練習し続けた琉球空手大会の予選の初日。ホテルから元気よく飛び出して予選会場を目指す彼女は、幼かった頃の病弱さは微塵も見えない、ごく普通の十五歳だった。道着に着替えながら、ハンバーガーを咥え・・・どこか、焦っている様子。・・・・なぜ焦っているのか?そう、予選会場に遅れそうだった。
五分後、予選会場の入口でゼーゼー息を切らしているアメリカ人の女性。周りを通りがかる日本人達はその様子を見て、クスクスと笑っている。
「ん、なんだよ。アイツら、人の気も知らないで。遅れて試合にも出れなくて帰ったって言ったら、Dadになんて怒られるやら・・・。」
ちょいと気を悪くしながらも、人目なんかものともせず、予選会場に入っていくのであった。
活気づく予選会場、なんとか受付を終わらせたミラは会場内の選手をまるで品定めするかのように見歩いている。
「お・コイツと当たったら楽勝だな、秒殺でやっつけてやる!」
「げ!なんだ、あのガタイのいい奴、あいつとだとちょっと苦労するかもな。」
ブツブツと言いながら練り歩いている。
ふと、運営員から呼び止められる。
「キミキミ、参加者だよね?一般女子の部の。」
「はい。ミラです。サンディエゴから来ました。」
「得物は持参かい?防具は貸し出せるけど」
「あ、持ってきてますよ。そっか!検査があるんだね?」
そう言うと大きなバッグの中から樫木製のヌンチャクを取り出した。
「どこにでも売ってある安モンだよ。愛着あるから名前は付けてるけど・・・。」
運営員は入念に手に取ってみていたが、
「OKだよ。そんなに厳しい規定があるわけじゃないから。危険な物じゃなければね。もうすぐ予選が始まるから。防具はあっちの係で貰っておくんだね。」
「ありがとう。親切な人だね。」
照れながら運営員は去っていった。
「さてと・・・。」
キリっと気分を切り替えて、いよいよ予選の始まりだ。
予選一回戦、相手は五歳ほど歳上のオランダ人女性、だいぶ体格も良い。対峙すると、その身長差は歴然であった。どこか見下したような表情でこっちを見ている相手を見上げて、ミラはゆっくりと深呼吸をした。
「はじめ!」
審判員の合図、が会場に響き渡るや否や、ミラのヌンチャクはヘッドギア越しの相手のアゴを捉えた。綺麗な孤を描いてホタルが舞った。瞬間、大柄の相手は宙に浮いて、そして、仰向けに倒れた。
「ゴメーン」
会場は静寂に包まれた。相手は倒れたまま、気を失っている。わぁっ!と会場は沸いた。本当にあっという間の出来事だった。ミラはすたすたと競技場内を後にする。
「ま、順調な立ち上がりかな。」
ミラは心の中で小さくガッツポーズを作った。
余裕の表情のミラは疲れた様子を見せることなく、バーガーにかぶりついた。
午後の部、予選二回戦、これもまた一瞬の出来事だった。はじめの号令から一分間の静寂の後、ミラの回し足払い。と同時に上段からも回しヌンチャクが飛んでくる。下段の足払いを食らって体勢を崩している上での上段攻撃は、予想もつかなかった為、ヘッドギア越しの頭蓋骨が揺れる程のダメージを受け、相手は気絶していた。
「もぅ、つまんなぁい。」
心なしか、欲求不満に感じ始めた彼女はふてくされた表情で競技場を降りたのだった。
予選二日目、三回戦・四回戦も順調に勝ち進んだミラは決勝トーナメントへと駒を進めることができた。ホテルに戻ってベッドに横になる。
「だぁ~!今日も疲れた。」
「コン、コン。」
ホテルの部屋を訪ねてきたのは予選の試合の際に仲良くなった参加者の一人だった。
「ちょっと息抜きに街に出てみない?おいしいソーキそばのお店知ってんだぁ。」
「そうだねぇ、こんな狭い部屋にいても気が滅入るだけだし、行ってみようか。」
ホテルの玄関でもう一人と合流して、三人でちょっと離れた街のほうに繰り出すこととなった。一通り、街を練り歩いて、お腹も一杯になったのでホテルに戻ろうとした帰り道。 一人の女性が四人程のアメリカ軍人に囲まれている。
「オキナワはMarinesか。NavyだったらDadの名前が通じるかもだけど、しゃーない。実力で行くか。」
向かおうとした矢先、一人の女の子?が先に軍人の一人に声をかける。一通りの問答の後、いきなり軍人はその子に殴りかかる。が、左フックをかわして、身を低めたかと思った瞬間、小さな体が巨漢をふわっと投げ飛ばす。残りの三人も襲い掛かろうとするが、何かを感じ取ったのか、倒れた一人を抱きかかえ、すごすごと退散していく。
「ほー、すごいもんだねぇ。私と背格好もあんまし変わらなさそうな女の子が。」
「ミラ、あの子も確か今回の大会の参加者だよ。決勝まで進めばアンタと当たるはず、たしか、アスカ・ナイトウとか書いてあったっけかな。」
「ふーん、確かに今までの奴らと違う。なんか、殺気を放ってる。相当の手練れだね。」
気にはなるものの、その場で本人と会話することもなく、ホテルに帰って休みを取ることにした。
翌日、決勝トーナメントが始まる。とは言っても昨今、規模が縮小したこの大会の決勝トーナメントはヌンチャクの部は準決勝、決勝の二回戦のみ。ミラは緒戦は何事もなく勝利し、決勝へと進んだ。そして決勝の相手は、思っていた通り昨日の女性、内藤 飛鳥であった。
「よろしくお願いします。」
物静かな面持ちとは裏腹にみなぎる闘志が溢れ出ているのを感じる。
「はじめ!」
最初のうちは様子見もあり、軽い小競り合いが続く。しかし、徐々にではあるが、隅のほうに追い詰められていく。
「やべーな。流れを変えないと。」
ミラは高くジャンプする。その跳躍力は桁外れで、一瞬、飛鳥の視界から外れてしまう。はっと気づき、試合中にあまり行うことのない角度まで首を上に傾けると、上からヌンチャクが降ってくる。
「カガァン!」
鈍い音が会場内に鳴り響く。ヒットしたかと思われたが、かろうじでヌンチャクで受け止めている。
「物凄い衝撃・・。」
飛鳥も体勢を立て直そうと中央まで戻される。
「マジかよ!あの奇襲にも反応できんのか。」
ミラはミラで決めたと思った攻撃が受け止められ、驚きの様子。一瞬の隙をつき、今度は飛鳥が反撃にでる。低い体勢に構え、右へ左へ稲妻のように移動し、ミラの懐へ入り込みヌンチャクを揃えた状態の両端でみぞおちを突き上げる。
「グハッ!」
みぞおちへの強烈な一撃はミラを悶絶させる。
「プロテクターがなかったら・・・全治三か月モンだぜ。」
防御態勢をとるや否やの反撃、ミラは後ろ向きで大きく開脚したかと思えば、振り向きざまにヌンチャクを振り下ろし、綺麗な孤を描く。ヌンチャクの先端は飛鳥のヘッドギアの上部を打ち抜く。
「はぐっ!またもや視界から消えた。なんてトリッキーな動きなの。」
一進一退の攻防が続く中、会場は静まり返っている。あまりの壮絶な決勝戦に皆、声も出せない状態であった。残り時間も少なくなってきた。ミラは考える。
「時間もない。相手もまだ余裕ありそうだ。ここは一発、まだ成功したことないけど、アイツでいくか。」
一瞬だけ直立し、深呼吸する。すぐに深く構え、集中して気をため込んでいるような構え。
「これは、わざと隙を作って誘い込んでいるのだろうか?その割には、隙が無い。闇雲に突っ込む訳にはいかないが、チャンスはチャンスに違いない。ここで決める!」
飛鳥も焦っていたので、ここで勝敗を決める一撃を決意する。静寂を破って動き出したのは飛鳥のほうだった。先ほど同様、稲妻のような左右移動で翻弄し、懐に入って低い姿勢から突きを繰り出す。決まったかのように見えたが、ミラの体躯は半身ズレる。
「なっ!体を突き抜けた?」
体勢を崩した飛鳥に斜め横の方向から爆発的な波が押し寄せる。
「七星・昇り皇龍!!」
閃光のような龍が昇り上がってゆく。飛鳥の胸部のプロテクターは破け、ヘッドギアも跳ね上がる。そして、そのままゆっくりと仰向けに倒れた。
「それまで!」
審判員の掛け声が響いた。会場は湧きあがり、ミラの優勝が決定した。
「ふぅー、ここ何年かで一番疲れたわー。」
安堵の声を漏らしたミラは防具を外し、飛鳥のもとへと駆け寄る。
「お疲れ様。うちの地元でも、あんたほど気合の入ったヤツはいないよ。いい試合ができた。ありがとう!」
吹き飛んで倒れた割には意外にもケロッとしている様子の飛鳥。そして、今までの冷徹そうな面持ちとは違い、朗らかな笑顔を返してきた。
「こちらこそありがとうございます!いやぁ、さすがはキャプテン・クロフォードの娘さん。お強いですねぇ。」
「へ?Dadの知り合い?い~??」
よくよく話を聞いてみると、実は飛鳥は父の弟子であった。日本人のせいか、若く見えているが二十歳、バリバリの米海軍士官候補生だった。体格こそ小さいが、幼い頃から練習を積んできた琉球空手の達人で、十八歳になるや否やアメリカ国籍を取得、そのまま米海軍士官学校に入校。アカデミーの中ではエリート中のエリートだった。実戦経験の訓練でサンディエゴの父の部隊を訪れてからの師弟関係であり、今回の大会にミラが参加するので、失敗経験を積ませる為にわざわざ参加してもらうようお願いしたとの事だった。
大会を終え、サンディエゴ国際空港に降り立ったミラを待っていたのは、恰幅のいい父の姿だった。
「Dad!」
感動の親子の再会。駆け寄った瞬間、ミラは勢いよく父にエルボーを叩き込んだ。
「なにすんじゃい!われぇ!」
「だって、飛鳥のこと隠してたでしょ!」
「それはお前、そのー、なんだ、負ける経験も必要だと思ってだな。世の中には上には上がいるってわかっただろ!って、そのトロフィーは・・・まさか?」
「へっへー、ちゃぁんと優勝してきましたよ。エリック・クロフォード中将どの!」
皮肉めいて海軍式の敬礼をした後、すたすたと迎えの車のほうへ歩いてゆく。
「そうか、まぁ、お前の事だ。優勝してくると信じてたぞ!」
発する言葉とは裏腹に心の中では
「コイツ、このまま調子に乗せると、何しでかすかわからん。」
今日のところは和やかな雰囲気で、家路に着く二人だったが、やがて父の疑念は現実のものとなっていくのであった。
第3章 自由への渇望
琉球空手大会優勝から五か月後、気怠そうな女子高生はハイスクールの庭園で秋の訪れを憂いていた。
「だっるぅー、一通り目標も達成したし、こっち戻ってきて飛鳥と会えたのは二週間くらい。あいつ、すぐアナポリスに戻るって言うし。」
故郷に戻ってきて、激戦を繰り広げた好敵手と再会したのも束の間、実践訓練の任期を終えた士官学校のエリートは本学舎へと戻っていった。
ミラにとってヌンチャクは、幼い頃から人並みの体力をつけるために始めたものだった。目標を達成した今、心に残るのは思っていた以上の空虚感だった。そんな腐りきっていたミラに声をかけてきたのは、同級生の悪友、ジュリアンであった。
「授業サボっといて、なーに黄昏れてんだよ。」
「ジルか、ほっといてくれよ、こう見えて繊細ナンだぞ。」
「何が繊細だよ。あのマッチョゴリラ軍人の娘が。」
「こっちだってあのマッチョゴリラ軍人には迷惑被ってんだよ!あいつの娘だってだけで、いろんなチンピラがケンカ吹っかけてくんだから。」
「そらしゃーねーって。ところで話は変わるんだけど・・。」
一連の軽口のあと、急にジルは真剣な顔つきで話を切り出した。彼女の話はこうだった。
ジルの友人で、ミラも知る同級生のアリアナ。そのボーイフレンドが、とあるチームを抜けるか抜けないかでトラブルとなっているらしい。その半グレ集団の内部ではコカインを凌ぐ違法薬物の密輸に関わっているという噂もあり、内情を知った者がチームを抜けるためには多額の脱退金とそれなりの制裁を受けなければならない。恐ろしくなったボーイフレンドは街から逃げ出そうとするが、その企みすらばれてしまい、いまは家から出られない状態だという。なんとか助けることができないか?というのが相談内容だった。
「手っ取り早いのはそのチーム壊滅させちゃえば?!」
マッチョゴリラ軍人の娘はいとも簡単な風に言って見せる。
「だいたい、そのなんとかっていう半グレ集団も理不尽だけれども、そもそもこの世の中自体に理不尽さを感じるんだよ!やれ校則だの、やれタウンのルールだの、大人らが自分の都合のいいように取り決め作ってるだけじゃんか!私は私の自由に生きたいんだよ!私もそうなら、私の仲間もそうだ、何人たりとも我々の自由を奪うことは許されぬ!」
「・・・・。」
後から加わったアリアナを含め、そこにいた一同は皆、素っとん狂な顔をしていた。言ってる事はかっこいいかもしれないが、完全に話の論点がズレている。ミラ本人以外は皆その事に気づいていた。しかし、話は旨い方向に向かっている。これを逃す機会はない。実際のところ、ジルは学生アマチュアレスリング女子の部の全米No.3。アリアナにおいてはボクシング・ジークンドー・シュートボクシング等の数々の大会を制した立ち技最強の猛者、加えてヌンチャクの琉球大会覇者は言われないとばっちりによるケンカの百戦錬磨でもある。
「自由を求めて、我々のチーム結成だぁっ!!」
「オォーッ!!」
勢いだけで、レディースギャングチーム(Spookies)が結成された。自由を求めた仲間を集い、集まった総勢八十名、実力者揃いでもあったので、件の半グレチームを壊滅に追い込むまではさほど時間はかからなかった。
Spookies結成から三か月が経過した。自由を求めて、力を試し、街を駆け回り、仲間と共に笑い、時には涙を流した。
「あぁ、日常を謳歌できてる、これが私の求めた生き方か・・・。」
危険なトラブルに巻き込まれる事も少なくはなかったが、それでも彼女は生きているという実感を持てていた。しかし、そんな中で大きな災いが襲い掛かってきていた。
金曜日の夜、街中の寂れた一角の、地下にひっそりと佇んでいる場末のバー、そこが彼女たちの根城だった。
すっかり情報収集役の立ち位置を築いていたジルが扉を投げ開いて飛び込んできた。
「フェニックスが動きだした!こっちに突ってきてるらしいよ!!」
「ターコ!あいつらは地元の保守派だって。わざわざよそのシマ荒らすような根性あるかね?」
情報通のジルの話を無視して、それなりに真っ当な意見を気怠そうにSNSゲームに熱中しながら答えるミラの姿があった。
「脳筋ムスメの言う通りだって、あんなハゲおやぢのチームがヨソ迄遠征しようなんて考えられないよ。」
アリアナも追い打ちをかけるようにミラの意見に賛成する。
「ハゲおやぢの考えならね。どうもじゃじゃ馬のヨメが絡んでるらしい。」
ジルは胸を張って情報の正確さを主張した。
Spookiesはもはやサンディエゴの筆頭ギャングチームとなり、自由を掲げる一風変わったチームは地元の治安を守り、市民に迷惑をかけない自警団のような存在だった。しかし、他所の地区は違う。サンディエゴの300マイル程東にある、アリゾナ州フェニックスには超の付く武闘派集団である「Agile Sloth(機敏なナマケモノ)」が牛耳っていた。
創設メンバーであり、当時のボスであったメイソン・スコットは求心力に長けた男だった。仲間を尊み、自分が築きあげてきたチームを守り抜く為に、無理な勢力の拡張は望んでいなかった。
メイソンには歳若い妻がいて、彼女もまたチームの右腕として働いていた。名前をダイアナといい、体格も良く、力も強い、男勝りな女性であった。勝つためには多少の犠牲を厭わない激しい気性もあり、チームのNo.2の座に居座っていた。
ジルが言うには、彼女の進言があり、今回の西方進出が計画されたのではないかという事だった。
「なるほどね。しかし、あのハゲおやぢを動かすとは・・・おヨメさまにも困ったもんだな。んで、いつよ?」
「全数は動かさないだろうからな。斥候部隊が明日の夜入り、残りと本丸が二日後入りってとこだな。揃ったら、うちのメンバーの倍にはなるだろうね。」
脅している訳ではなく、ただ正確な情報を冷静にジルは語った。だが、一方でミラも口を挟む。
「数勘定だけが全てじゃねーよ。超武闘派つっても実力が伴ってんヤツはものの数名だって。」
大口を叩いては見るものの、表情は曇っていた。全面抗争となると、こちら側の犠牲も多い。仲間が傷つくのは相手同様、可能な限り避けたい。
「今日はないなら一旦ハケるよ。準備と心積もりだけはお願いね。」
金曜日の夜にも関わらず、今日は早々に引き上げる事にした。静寂の中にぼんやりと照らす月明かりが、二日後の行く末を見守っていた。
二日が経った。夜も更けて、日が変わろうとしていた。埠頭の一角にSpookiesの面々が集結する。やがて埠頭の入口のほうから、ぞろぞろとガラの悪そうな連中が向かってくる。みるみるうちに人の波で埋め尽くされていく。びっしりと埋め尽くされた人の波が縦方向に割れてきて、三人の人影が現れてきた。
向かって左側に見えるのがメイソンの妻であるダイアナ、180cm近い巨漢で斬馬刀使いの達人である。向かって右側は初見ではあったが、いかにもと言いたくなるような悪人面で病的な表情と猫背姿勢ですぐにでも襲い掛かってきそうな雰囲気を醸し出している。そして真ん中に見えるのが、スキンヘッドにサングラスとカストロ髭を貯えているチームのボスであるメイソン・スコットであった。
「ん?んんー?No.3のレイピア使いのおねーちゃんがいねーじゃんか。どした?ハライタか?」
「新興の貴様らに全勢力を突っ込む程の価値はねぇよ。地元でキチンと守りを固めてもらってる。」
「相変わらず慎重なオッサンだな。まぁ、わたしら相手なら妥当なトコロだろうよ。所詮キミタチの算段はそんなモンだろうからね」
ミラも負けじと言い返す。そこにダイアナも口を挟んできた。
「ハッ!目が悪いのかねぇ。どう見たってお前達の劣勢は明白だよ」
「言ってくれるねぇ、おヨメさまよ。烏合の衆がいくら集まっても戦力とは言えねーって。」
「クソっ!ねじ伏せてやるよ!」
ダイアナがかかれと言わんばかりに合図をすると、ならず者集団が一斉になだれ込んできた。
「やれやれと。じゃあ、いきましょうか!」
呼応するかのようにSpookiesのメンバーも一斉に走り出す。なんの計略もない、真正面からのぶつかり合いとなった。
戦況は、互角・・・ではなかった。明らかに守り側の陣営が優勢である。戦い方の粗さにも違いがあったが、被害数の出方が違う。被害を最低限に抑えるように普段から訓練されてる、その差は歴然であった。加えて、人の波の中に三本の線がメイソンに向かって進んでいた、ミラ・ジル・アリアナの侵攻スピードは目に捉えることが容易であった。
「なんなんだ、この連中の強さは!!」
メイソンは動揺した。新興の、女ばかりのチームなどと高を括っていたが、まるで次元が違う。気が付くと道が割れ、そこからミラが出てきた。
「よう!オッサン、待たせちまったな!」
言うや否や、ミラはメイソンに突っ込んでいく。clumsy fireflyがメイソンのこめかみを捉えようとした瞬間、横から割ってきた斬馬刀に阻まれた。
「なんで、こんなに早いんだ。」
かろうじで、ヌンチャクの一撃を止めたものの、ダイアナも正直驚きは隠せない。
「しかし、だからと言って思い通りにはさせない。」
リーチの長い斬馬刀は遠い距離からミラに襲い掛かってくる。これもまた、横から割ってきたアームプロテクターによって止められる。瞬時に懐に移動して、斬馬刀の柄の部分をアームプロテクターで止めたのはアリアナだった。
「おっと。アンタの相手は私が務めさせてもらおう。」
チラッと目配せをして、アリアナはダイアナの前に立ちはだかった。
「サンキュな!」
ミラも返答してから、メイソンの下へと向かう。
「おヨメさまも忙しそうだし、タイマンと行こうか。」
「タイマンか、久しぶりだな。その響きも。」
懐から取り出した電磁ロッドは手元のボタンを押すと三段階に伸び、バチバチと青白く光っている。
周りの者達も既に戦闘を止め、リーダー同士の対決に固唾を飲んで見守っている。対峙してから数秒後、動き出したのはミラのほうだった。フェイントのように回転してから回し足払いを放ち、体勢を崩したところで発勁のような両突きを出す。
「ムゥ・・。」
電磁ロッドで防御はしているが、貫通した気の衝撃は防ぎきれていない。気を緩めることなく猛追は続く。メイソンが手元の二つ目のボタンを押すと、ロッドから鋭利なスパイクが突出してきた。殺傷能力が上がったロッドを振り回すが、その連撃は空を切る。
「なんなんだ。こいつの動きは。これが十六歳の小娘の動きかよ。それに、瞬発力がハンパねぇ。一気に間合いを詰められるから、ヌンチャクのリーチの短さを補ってやがる。ダイアナの斬馬刀でも苦労するぜ。」
仕方ないとばかりに、間合いを取って電磁ロッドを×の形にクロスさせると、青白い稲妻がミラに襲い掛かる。
「バチバチィッ!!」
稲妻はミラに直撃した。が、悲鳴を上げることもなく、冷静な顔で何事もなかったように反撃を繰り出す。
「やっちゃおうかなっ!」
構えを取ったところから、いつものように一気に間合いを詰め、ヌンチャクの乱舞を繰り出す。フィニッシュはヌンチャクを上に放り投げ、無手で思いっきり殴り倒す。吹っ飛んだメイソンはそのまま背後の人だかりに突っ込み、動かなくなる。上に放り投げたヌンチャクはまるで測ったかのように手元に落ちてくる。
「ケリついたな!あたしらの、自由は守られた!」
「オォーっ!」
ダイアナとアリアナの決着はついていなかったが、No.1がやられたとあってはこのまま続けても仕方がない。敗走の道を余儀なくされた。この闘争でダイアナ以外の主要メンバーは殆ど負傷、シャドウと呼ばれていたメイソンの右側にいた悪人面のNo.4はジルのバックブリーカーをもろに食らい脊椎損傷により死亡していた。そのほかのメンバーも大打撃を受け、チームはほぼ壊滅状態となった。
一方のSpookiesのメンバーは軽傷者数名で被害は少なかった。ミラもその事だけが気になっていたので一安心であった。
翌、月曜日の朝、サンディエゴの街は何事もなかったかのように一日が始まった。いつものようにハイスクールの庭園で授業をサボっていたミラ・ジル・アリアナの三人はダイアナ・スコットの事を考えていた。
「ハゲおやぢはもう引退だろうね。問題はじゃじゃ馬のヨメのほうか。ありゃ根に持ちそうなタイプだったからな。あれは必ず復讐にくるよ。」
「当分はこれねーだろうよ。それまで、平和な日々を謳歌しまショ。寒っ、もう冬だな。」
庭園で寝転んでるには寒い時期になってきていた。この先、何年もこの友人らと自由を求めてバカやってる訳にはいかない。そんな事を考えながら三人は十六歳の冬を迎えていた。
第4章 影と喪失
Agile Slothとの抗争から二年ちょっとが経過していた。二月のとある日の事、この時期のサンディエゴの街では雨は珍しくはなかったが、どことなく悲しげな雨が降る午後だった。
十八歳に成長したミラは家を出て、一人暮らしを始めていた。Spookies結成の頃から、なんとなく親子の隔たりを感じるようになり、会話の数も減っていた。特段大喧嘩をした訳ではないが、どことなくよそよそしさが表面化し、家に居づらくなったので、近くの安アパートを借りウエイトレスのアルバイトも始めた。
突然の珍しい来訪者がやってきた。叔父のアンドリューは父の弟に当たり、同じく軍人で体格のよい、父に似て豪快な人物だった。父の所によく訪れていた時は、大声で笑い、酒を呑んでは暴れまくっていたものだったが、今日は違っていた。真剣な面持ちで、ずっと黙っていた。
「どうしたの?いつものアンディらしくないじゃんか。」
珍しいお客の為に、キッチンに移動してマグカップにコーヒーを注ごうとした時に叔父は口を開いた。
「ミラ・・・・・すまん。」
「珍しい事だらけだな。久しぶりに現れたかと思ったら、謝るだなんて。去年のサマーフェスの200ドルの件か?それとも、ダチのジャネットに手出した件か?」
無理におちゃらけて話題を明るくしようとしては見たが、振り返って目が合った瞬間に何かを悟った。
「Dadに・・・なんかあったのか?オイ!」
マグカップは地面にこぼれ落ちた。ミラは気にも留めず、叔父の両腕をつかんで問い詰めたが、叔父はそれ以上、口を開くことはなかった。窓では悲しげな雨が、ぽつぽつと打ち付ける音がだんだん大きくなっていくのだった。
三日後、街外れの国立墓地。この日もまだ雨が止むことはなかった。多くの参列者が集う中、喪服に身を包んだ十八歳の女性は神妙な面持ちで、何も考えることなく、ただ、人形のように立ち尽くしていた。お構いなしに、葬儀は粛々と進んでいく。
聞き入れている訳ではないが、どこからか聞こえてくる話し声は勝手に耳の中へ入ってくる。
「模擬訓練での事故だったらしいよ。」
「今のご時世で?安全が第一に担保されてるのに、そんな事故死なんてあり得る?」
「死因はまだ調査中らしいよ。誰かがペンタゴンのお偉いさんを見かけたらしい。」
「ウワサ話なら、遺族に聞こえないトコでやって欲しいな。」
雨脚は弱かったが、傘もささずに立ち尽くしていたミラの下にジルがそっと傘を差しだして寄ってきた。
「大丈夫だよ。今は・・・何も、考えられないから。」
いつもの元気な受け答えが返ってこない。図太い神経で有名なジルも、流石にそれ以上は声をかけることができなかった。
雨は降り続ける。シトシトと心地よい音を立てて、流れる涙を隠すにはちょうど良い、このまま時が止まってしまうかのように・・・。
第5章 失われた真実
時は流れる川のように過ぎていく。父の葬儀の時に十八歳だったミラも、今や二十歳となっていた。葬儀の後、早々に安アパートは解約し、父と住んでいた一軒家に戻ってきていた。アルバイトは続け、Spookiesの活動も健在で、まだまだ自由を追及する日々は続いていたが、酸いも甘いも経験した二十歳は若干大人になっていた。
二年はあっという間の事で、ミラにとってはまだ父の死を完全に受け入れてはいない。父の書斎も手付かずのままである。そうは言っても、徐々にではあるが、現実を受け入れる努力はしていった。久しぶりに部屋のドアを開けると、部屋の中から昔懐かしい父の匂いが漂ってきた。
「やっぱり、この部屋は時が止まってる。」
葉巻の香り、部屋に掛かった海軍の制服、バーボンの空瓶、万年筆・・・。部屋の一面を埋め尽くすような書棚にはびっしりと書籍が並んでいる。その一角にノートや資料、写真が入った封筒などが置いてある区画があった。その中でも気になったのが、分厚い、たくさんの付箋が挟んであるハードカバーのノートであった。
「これは、Dadの、日記?」
一瞬、ためらいはしたが、中を開いてみる。
~~
XXXX年10月7日 今日もチームの集会で帰りが遅いようだ。夢中になってくれることができたのは嬉しい限りだが、心配でもある。口酸っぱく怒っても逆効果になるかもしれないので、じっと見守る事が大事なのはわかっているが、悩ましいところだ。キャサリン・・・。君が生きていれば、どう育てていただろうな?
愛しい我が娘よ。お前には本当に申し訳ない事をした。愛国心の為、軍の事ばかり考え、家族をないがしろにしてしまっていた。その為、お前の母に負担をかけ過ぎていたとは・・・。元々、体が丈夫ではないことは分かっていた。その体質はお前にも引き継がれていた。ただ、不器用だった自分ができる事は、厳しく育てるという選択肢しかなかった。もっと他のやり方もあったに違いないんだがな。今でこそ、元気に育ってくれたが、幼い時には辛かっただろうな。本当にすまん。
~~
「Dad・・・。」
思わず、涙ぐんでしまう。
「涙は拭かない。零れ落ちるのは仕方がないが、拭くという行為は弱みを見せている事になる。」
これもまた、父の教えであった。
ページを飛ばす。
~~
XXXX年4月18日 もう何日も会話がない。アンディと三人で馬鹿な話で盛り上がっていた頃もあっただけに、余計に辛く感じる。あの頃の日々は戻ってこないのだろうか。明日、あの子が働くダイナーに行ってみよう。ちゃんと真面目に働いているだろうか?食事は食べれているのだろうか?可能ならば、声をかけてみようか?いやいや、ここは黙って見守るだけのほうがいいはず。あまり接触すると、前みたいに煙たがられるだけだ。ということは、店に行くのも迷惑か。あぁ、どうしたものか?そうだ!変装して行こう!よし、知人にILMで働いている奴がいたな。明日は早いな。今日は早く寝よう。
~~
「なぬ!ダイナーに来た事あったんか?全然気づかなかった。てゆか、ILMって、どんだけ本格的なんだ!?」
「・・・。この頃も、心配はしてくれてたんだな。なのに、気づいてあげれなかった。」
予想外の内容も知ることもあったが、それも含めて改めて父の深い愛情に感慨深くなってしまう。
更に、ページを進めると、急にページの紙質が変わる。内容もまた。
~~
XXXX年5月10日 ヤツらの足を突き止めた。ロックフォードに対象を派遣するという計画は失敗したらしい、しかしまた何年か後に計画するだろう。どういう繋がりがあるかはまだ不明だが、拠点はヨーロッパらしい。
~~
「ん!なんだぁ~?」
次に進むも、日付が逆行している。何か特殊な書き方で内容を隠したかったのか?
~~
XXXX年3月31日 シモンの「兵器作り」が動きだしたようだ。邪剣の欠片が使われる。一刻も早く止めなければ。
~~
「邪剣?シモン??ヨーロッパ??? Dadの所属は太平洋艦隊だったはず。なぜ東の海に?そもそも邪剣ってなんだよ?ファンタジーゲームのやり過ぎじゃね?」
先を読めば読む程、謎は深まってゆく。
「アンディの野郎!あいつ知ってんな!絶対なんか隠してやがる。」
部屋の片づけは放り投げ、叔父の家へ飛ぶように向かっていった。
「アンディ!」
「おぉ!ミラか!こないだのヘレンちゃん、可愛かったなぁー。また飲みに行く時、誘ってくれよぉー。」
「んなこたぁ、どーでもいぃんだよ!ちょいツラ貸せやー!」
ドアを蹴破るかの勢いで叔父の家に入ったミラは、持ってきた父の手記を見せて問いただした。
一通り、手記を読み終えた叔父は、先ほど迄のふざけた姿はなく、二年前にミラの家を訪れた時と同じ表情になっていた。
「・・・、どこまで読んだ」
「大体パラ見はしたけど、全然書いてある事がわかんなかった。邪剣・シモン・ヨーロッパってワードだけはよく目にしたけどな。あと、ロックフォードってのはどこだ?シカゴのほうの街だっけかな?」
ふぅっと溜息をついて、叔父は重い口を開いた。
「正直に言うと、俺も全ては知らんのだよ。エリックは表向きは第三艦隊に所属していたが、ペンタゴンからの特務で特殊な任務に就いていたらしく。」
叔父の話によると、父は内密に国家安全保障を脅かす、外的脅威を諜報する活動を行っており、中には命の危険も危ぶまれるようなケースもあり、特に家族には内密にされていた。その中で最近際立っていたのが、ヨーロッパのカルト集団による古の邪剣にまつわる活動が合衆国内で行われており、多数の犠牲者が出ているという事だった。
ある時、父が全身傷だらけで叔父の家に現れた際に問いただしてみて、その時に初めて叔父も知ったと言う。
「その時に言ってたのは、カリフォルニアのサンノゼに着いたリスボン発の客船にバケモンが乗ってたらしく、そいつにやられたんだとよ。再び行くって言ってたんで止めたんだが、エリックのヤツ、クソ真面目だから聞く耳持たずで飛び出していったんだ。そこから戻ってきた時には・・・もう棺桶の中だったんだ。あの時、俺がもっと強く引き留めておけば・・・。」
「大体わかった。別にアンディが引き留めれなかった事を責めちゃいねーよ。たぶん、私が言っても止めれなかっただろうし。」
二年越しに明らかになった真実。葬儀の時に聞こえていた噂話は案外間違いではなかった。しかし、このままで治まる訳もない。
「なに考えてやがる。だいたい察しはつくがな。」
「おろ?アンドリューさん、ただの筋肉バカかと思ったら、考える力もあったのね。」
とぼけたかと思えば、真剣な表情に変わって一言発する。
「私が、父の真実を追う。」
第6章 決意の旅立ち
「ならん!!!」
アンドリュー・クロフォードは自宅に押し掛けてきた姪が、とんでもない事を言い出したのに対して、猛烈に反対していた。
「エリックのような目に合わせるわけにはいかん。隠していたことは申し訳ないと思っているが、それはエリックも望んでいたはずだ。お前が危険な目に遭うのを避ける事だけが、最優先事項だったんだ。あのバカ強ぇエリックが瀕死状態になって俺を訪ねてきたんだぞ!相手はまさにバケモンだ!そんなヤツらをただの兵器として送り込んでくるような奴等だ。本拠地ともなると、どんなのが控えているやら、想像を絶するぜ。」
確かに今までミラが相手にしてきたギャングチームの連中とは危険度が全く違う。死が隣り合わせの集団だ。しかし、一度決めた事は曲げられない、強情っ張り娘は叔父の説得に奮闘する。
「叔父さん、私は子どもの頃に病弱過ぎて一度死にかけたんだ。そんなに長くはないはずの命をDadが救ってくれた。救って貰って生きながらえたこの人生にそんなに未練はないよ。むしろここまで生きて、ダチらと一緒に自由を謳歌できたんだ。それだけで私はもう十分に幸せだよ。私が今、すべき事は、命を賭してでも、私を救ってくれたDadの無念を、謎を、真実を代わりに為したい。それだけなんだよ。」
「許さん!俺は許さん。許す訳にはいかないんだ!!」
聞く耳もたないとばかりに、家を出ていく。一人取り残されたミラはすぐそこにあったソファーベッドにボンと腰を降ろす。
「ふぅー。まぁ姪っ子をそんな危険な旅に送り出すとは、なかなか言えないよな。」
持ってきた父の手記の表紙を見ながら、困った表情を浮かべる。
「古の邪剣ねぇ。一体なんなんだ。そんなもの利用しようとしてる奴等は何者なんだ。」
二週間が経過した。叔父と姪の関係はあれ以来、決裂したままだった。それでもミラは旅立ちの準備を進め、いよいよ今日が出国の日だった。
静かな港町に朝日が昇ってきていた。小さな荷物を背負ったミラは家の玄関を開け、外に出てくる。
家の扉には「貸家―入居者募集中―」の貼り紙が貼ってある。静かに深呼吸をすると道路のほうで「ブッブー」とクラクションが鳴る。車の中にはジルとアリアナが居た。
空港に着くと、Spookiesの連中も見送りに来ていた。メンバーの数も減って、今は十数名だけた。それでも気の合う仲間たちは別れを惜しんでくれた。ロビーで搭乗手続きを済ませ、出国口から手荷物検査場に入ろうとした時に、目の前に二人の影が見えた。飛鳥と叔父の姿であった。
「キャプテ・・あ、いえ、ジェネラルの時はお見送りする事もできませんでした。だから今回はちゃんと言わせて頂きます。ミラ、気を付けて、必ず戻ってきて。」
「飛鳥もね。大丈夫だって。帰ってきたら、また手合わせお願いするよ。」
飛鳥の後ろに隠れきれてなかった叔父がバツが悪そうに歩み出てくる。
「決して無理するな。できることなら、生きて帰ってこい。」
「ありがとう!きっと帰ってくるよ!生きて。」
琉球空手大会に旅立った時のように、元気に検査場に入っていく。
自由を求めて成長したホタルは、これからも自分を信じて生きていくと誓う。この先どんな困難が待ち受けていようとも、自由のために、父の死の真実を追求するためにも。
ミラ・クロフォードの旅は、ここから始まる。
―― 完 ――